J.の備忘録

なんか好きな作品とか絵とか漫画制作の所感を書きます。副音声みたいですね。

アマガミSS

 アマガミSSについてのお話。(多くのネタバレが含まれています。)

 

 「アマガミSS」※(2010,AIC)、及び後継作品「アマガミSS+ plus」(2012,AIC)は、恋愛シミュレーションアマガミ」(2009,エンターブレイン)を原作とした全26話のTVアニメの事。

 今年はアマガミSSが放送から10周年を迎え、8月にニコニコ動画で一挙放送が行われたり、去年はアマガミを中心として、キャラクターデザインを担当したイラストレーターの「高山箕犀」さんの作品を主題とした展示会「創設祭」(2019,Phrase Gallary)が秋葉原や各主要都市で行われたりと、未だに根強い人気を誇る作品であることを見せつけてくれた。

※(制作年,制作元)

 今回はアニメ「アマガミSS」についてのみ記述するが、いずれの機会に原作についての記事も書きたい。 

 アマガミ自体は、特筆して記憶に残る舞台設定は無いし、背景知識を持った人間がいるわけではない。(麗しい人々しかいない、というのはあるが。)
 どこぞの巨大学園に転入したり、主人公が前科者を更生させる人間であったり旅人であったり濃密な修羅場ドロドロの展開があるわけでもない。しかしそれらに負けず劣らずに心を惹きつける何かが存在するのは間違いないのだ。
 では、これから一体何が私をここまでアマガミに拘わらせるのか、またアマガミSSの見どころについて書き込んでいく。

 
さて。

 主人公は中学3年の冬、クリスマスのその日に手痛い失恋を経験している。

 アマガミSSではすべてこの導入から始まる。それから彼は恋愛に消極的になってしまい、特に高校1年のクリスマスは彼が通う輝日東高校の名物である「創設祭」にも顔を出せず、親友の梅原正吉と侘しい聖夜を過ごした。
 ……しかし舞台となる高校2年生の冬、憧れの森島はるか先輩を見て、彼女がもう卒業してしまう事などを考えて一念発起、冬までに彼女を作ろうと頑張ります。
 トラウマを乗り越え、創設祭が行われるクリスマスまでに彼女を作り、幸せな結末を掴むことは出来るのだろうか……。

 といった出来事から6名の各ヒロインを攻略していこうという話で、アニメでは一人4話構成のオムニバス形式で話が進んでいきます。


 個人的には彼女を作る動機が正直「不純だなぁ~」と思ってしまうのだがそれはこっちが異常なだけであり、人間はすべからく自己中心的でエゴの塊なので別に何もおかしくないのだ。しかも一ヶ月という期限付きで作るのってどうなんだとも思う。でも良いんだ(真顔)、だって現実の恋愛だってそんなもんだし。知らんけど。

 人間が何かを望んで、それを叶えるために行動することは基本尊い事なので、「彼女が欲しい」と望んで行動した結果、それが成就するのは素晴らしい事です。
 しかもこの主人公、大変誠実なのでそこも好感度が高い。

 

 話を戻して、各ヒロインについて説明していきます。

  • 森島はるか編(1~4話)
     憧れの森島はるか先輩と何とか知り合おうと考える主人公、橘純一は、その矢先に何故かその本人から振られてしまう。決意を固めた直後に起きただけに大きく落ち込む主人公は、その後先日のことは誤解から生まれた事故だと、森島先輩と彼女を連れてきた塚原響から説明を受ける。このことをきっかけとして純一と森島はるかは知り合い、仲を進展させていく……。

     見どころ:
     この話はアニメアマガミの導入として極めて優秀な出来であったと思う。
     アマガミファンでは、主人公は”変態紳士”と知られており、その斜め上の発想と行動力から生まれるモノはマジで何をどう生きていればその考えを思いつくのか本当に分からない事も多い。
     この森島はるか編でもその才能を遺憾なく発揮しており初めてアマガミを観た人間を振るいにかけたであろうことは想像に難くないだろう。膝裏にキスって何だよ……すげぇよマジで。
     ヒロイン森島はるかも”男殺しの天然女王”との説明に負けず劣らず変人なので展開のぶっ飛び方はアマガミSSの中でも随一。これで琴線に触れた人間は間違いなくこの作品にあっていると言えるだろう。
     始めは可愛い後輩としか思っていなかった彼が、自分に2回も告白してきたことで彼を異性として意識し始めた彼女は、慣れない気持ちに翻弄される。年上の女の子が甘えるのはダメかな等と不安を見せるシーンは大変良かった。
     他にも、森島はるかという人物が見せる、飛びぬけて明るく純粋であり年上でありながら幼くも思えるところや、物語が進むにつれて見せるやきもちや寂しがりやな、年相応の振る舞いを見せる面も、より関係性の進展を感じられる見どころである。
     特に4話の告白シーンは素晴らしかった!

  • 棚町薫編(5~8話)
     橘純一の中学からの悪友、棚町薫は友達である田中恵子の恋愛相談に乗る。その時、一番近しい異性である純一に男性側の意見を募るため、彼を放課後呼び出した。彼はそれを薫からの告白だと勘違いし、笑い話として棚町と話す。
     その後、棚町は純一と常に一緒にいる理由を考え、一つの結論――純一に恋をしている可能性――に辿り着き、彼との関係性を変えるため動き出す。

     見どころ:
     棚町薫という人物は情や筋を通すことを好み、正義、責任感が強い反面、あまり素行の良い生徒とは言い難いしすぐ手も出てしまう。
     性格も勝気というか姉御肌でさっぱりとしており、ノリも良いしなんかホント男友達に近くてそういうところが良いんだよね……。一話の冒頭とか田中さんの恋愛についてのイベントとか姉御肌感が出ていて良い。ファンが多いのも頷ける。
     そうかと思うと純一への想いを自覚した際に動揺したり、悪ふざけで純一をノックダウンしてしまった際にしっかり反省し、縮こまっている姿などは女性らしいというか、可愛らしい姿もあっていい。
     物語が進むと棚町家は母子家庭で、母と二人で生きていく為に自身はファミレスで働き、収入の半分は家計に入れているというしっかり者としての一面や、さらに大好きな父親との思い出を大切にするが為に、母親が再婚することを認められないという心境を純一に打ち明けるといった、いつもの”強い”薫とは一転して純一に弱みを見せた所など、徐々に長年培ってきた信頼を元に悪友から恋人へと変わっていく関係性のグラデーションが大変良い。
     他にも薫のヘソにキスを強行するシーンなどは橘純一が大物であることを示しているのもそうだが、それを許す棚町薫も大概というか何というか。微笑ましくなってしまう個人的に好きなシーンです。
     告白のシーンの「悪いところは100個言える、でもね、いい所は101個言える」は名言としても名高く、まさにこのセリフは悪友として、良い所も悪い所も知り尽くした薫だからこそ言えるだろう。

  • 中多紗江編(9~12話)
     夏休み前に転校してきた少女、中多紗江は引っ込み思案で気が弱い。ある日、彼女は純一の財布を拾ったことで純一と出会う。彼はそのお礼にと彼女の引っ込み思案を治すことに協力し、人前で堂々と振る舞う事ができるように二人で秘密特訓を始めた。紗江ちゃんは弱点を克服し、喫茶店のバイトを始めることは出来るのか?更に隠した「もう一つの目標」も達成できるのだろうか?

     見どころ:
     中多紗江編は他のヒロインと違って、中田譲治さんのナレーションが付いている。というのも彼女が気が弱く上手く喋ることができないという事もあり、演技では描写しきれない内面を読み上げているそうだ。ただ、原作で言うとシリアイ→ナカヨシルートの話をアニメでは採用しているためこのような形式になったのかなとは思う。アコガレ→スキだと中多さんの強さが純一君を救うのでそれは是非原作を遊んで内容を確認して欲しい。
     ともあれ、男性が苦手な彼女は、親友の橘美也のお兄さんである純一にはそのような経緯もあり比較的まともに接することが出来た。そんな彼女を純一は支え、また「教官」として彼女を導いていく。その教官プレイを彼の善意と本心から思いつくところがまた主人公の変態紳士たる所以か…。
     彼の真摯な思いは中多の感じるところもあり、家族以外で唯一まともに接することが出来る異性と言うこともあってか、彼女は純一に惹かれていく。中盤から終盤にかけて中多さんが純一に自分の気持ちに気づいてもらおうと奮闘する可愛らしくいじらしい姿と、純一が抱えているトラウマを克服しようとする姿は共に見どころと言えよう。
     更に最後、創設祭のベストカップルコンテストでの出演シーンは既にそれ付き合ってるって言えるんじゃないのかと…。恋愛事情は複雑怪奇。
     実は特撮ヒーローオタクであり、好きなヒーローの話になると早口になってしまうところ、好きな相手の為にする事は周りの目を気にせず大胆な行動をしてしまうところなど、中多紗江編もヒロインの魅力を存分に引き出した作品である。


    ここからアニメOPが「i love」から「君のままで」に代わる
    「君は君のままで 僕は僕のままで すべて分かり合えたら」なんだよなぁ……(しみじみ)


  • 七咲逢編(13~16話)
     ある日純一と梅原は、帰り際に立ち寄った公園で1年の女子に痴漢と間違えられてしまう。結果としてそれは彼女なりの冗談だったのだが、それが彼女、水泳部期待の新人である七咲逢との出会いだった。ご存じの通り純一は高校2年生にしては子供っぽく、しかし時折見せる頼もしい一面、そのギャップに七咲は興味をもったのか、二人でいる時間が増えて…。

     見どころ:
     アマガミの中でも人気なヒロインである七咲逢編です。純一と出会った直後は少し刺のある物言いも、1話終盤には明らかに優しい声色に変化したと言うのが印象深かった。
     弟の七咲郁夫の良き姉、才色兼備の塚原響からも信頼が厚い水泳部期待の新人である七咲は、ひょんな事から橘純一と深い仲に。子供っぽい純一に最近自分のいう事を聞いてくれない弟の郁夫君の面影を見出し、彼女は彼にそのことを相談する……そんなシーンを切っ掛けに二人の仲は進展します。
     大判焼きを一緒に食べたり、郁夫君にプレゼントする予定だった玩具を使って二人で遊んだり、遊園地で七咲が味噌ラーメン(!?)になったり……。二人で過ごす時間が増え七咲が純一に惹かれていく反面、彼女は水泳のタイムを下げてしまう。そして遂に、塚原先輩に大会の代表選手から外すと通告されてしまった。
     そして、アマガミSSで個人的に1,2を争うレベルで好きな、七咲を追いかけてプールに飛び込む場面。あれは橘純一が主人公たる最も重要な要素だと断言できます。平時において、自らを顧みずただひたすらに相手を想ってする行いは、人間の取ることが出来る行動の中で最上位に尊いものなので。それを見せつけてくれたシーンだと思います。
     そして最後の告白シーン、七咲が思いを伝えるシーンは是非アニメで見てほしい。
     七咲は橘と遇わなければ、何も問題なく水泳部のエースとして輝かしい未来が待っていたというのもまたいいのだ。

  • 桜井梨穂子編(17~20話,SS plus 3~4話)
      純一と幼馴染である梨穂子は、純一への片思いの状態から抜け出せないでいた。抜けているところが多い彼女と、それをからかいながらフォローする彼。その心地いい距離感を大切にしていたのだ。そんなある日、梨穂子が所属する茶道部の先輩たちに、純一は創設祭の手伝いと茶道部への入部を持ちかけられる。純一は一旦入部を断るが、梨穂子を放っておけない気持ちも芽生え…。

     見どころ:
     桜井梨穂子編はアマガミSSの中でも異質である。……というのも梨穂子編はアマガミSSの中で唯一「付き合わない」終わり方をしたのだ。いわゆる原作のナカヨシルートを突き進んだ結果である。
     この結末には賛否両論があるが僕は好きです(真顔)。
     梨穂子と純一の関係性を丁寧に描いているって部分はすごく好きだし。唯一創設祭が終わった後の話を描いていることから、二人の人間関係の時間的深さを演出しているのだと思う。それほど彼等の関係性が深く、また変え難いという事だろう。
     見どころとしてはとにかく「梨穂子はかわいいなあ!!!」に尽きる。梨穂子は自分の体型をよく気にしており、ダイエットをしては失敗する…というのが純一との定番の会話。実際ダイエット中にシュークリームを食べてしまったりケーキ食べたりとお前いっつも何か食べてるな可愛い奴め!
     後、純一お前ホント鈍いな!!こんな良い子他にいねぇって!!!
     それはそうとして、創設祭を終えた後、梨穂子が純一にクリスマスプレゼントとして手袋を贈るところや、純一が初詣に行く前に梨穂子からプレゼントされた手袋をちゃんと持って行ったり、茶道部の先輩方が卒業してしまう前に新入部員を獲得しようと梨穂子が頑張る姿や、最後、純一が卒業する先輩方に茶道部の入部届を見せるところなどなど見るべき場面は多い。演出意図としては婚姻届の役割を果たしているらしい……なるほどそういう手もあるのか……。
     SS plusだと夏に突入した梨穂子と純一が「ちょっとした」出来事から急激に関係が進展するのだが……それは別の機会に書くことにする。ただ、これを合わせて桜井梨穂子編が完結すると思っている。

  • 絢辻詞編(21~24話)
     今年はクリスマスの辛い記憶から逃げないように、純一は創設祭実行委員に立候補した。同じクラスの絢辻詞は純一と共に実行委員の仕事をこなしつつ、クラス委員の仕事や先生の代わりに補習の監督をしたりと正に優等生として振る舞っていた。しかし偶然、純一は絢辻さんの手帳を拾ってしまい、彼女の隠された裏の顔を知ることとなった。

    見どころ:
     見どころしかない。
     「流石パッケージヒロイン格が違った」との言葉もある位に絢辻詞編は面白い。アマガミでは中多紗江が好きな私ですがアマガミと言う作品と言われれば絢辻詞と即答してしまう、そういうヒロインです。いつか個別記事書きたいですね。
     彼女は成績優秀、人当たりの良い優等生であり、今までの物語では創設祭実行委員長として純一とヒロインが結ばれることの多かった創設祭の準備を主導していた。先生たちからの信用も厚く、クラスメイト達からも一目置かれている。
     そのような彼女が、おそらく人生の中で唯一人前で”隙”を見せてしまったのがあの手帳を落とした時であり、計算外だったのはそれを「橘純一」という人物が拾ってしまった。
     そこが転換点であり、この後の絢辻詞の人生を大きく変えることになった。
     彼女が隠していた裏の顔は、自身の目的の為にはどんな努力を払うことも厭わないストイックかつ計算高い、更に腹黒さも持ち合わせた、まあ”いい性格”をしている。
     この時、特筆すべきことは表と裏で一人称が違うのだ。表は「私」、裏は「あたし」と各人格は独立であることをここで印象付けている。
     人は誰しも裏の顔を持つ。その中でも絢辻詞は本当に別の人格を持っているかのような振る舞いをする点は、今でこそ珍しいキャラクター性ではないが、その質が生々しく個人的に驚いたことをよく覚えている。物語上このようなキャラクターは暗く重い過去(いじめや親からの虐待など)が描かれがちだが、絢辻詞の場合そうでもない所も好き。いや重いけどね…。彼女はある意味何処にでも、それこそ現実に存在しうる可能性を持つ。――実在性を感じるのだ。
     そんな彼女が純一君と出会い、影響されていく。

     「あなたを私のモノにします」
     「だから、私をあげる。
      その代わり、今あなたがいる日常を私に頂戴!」

     第三話で、彼女は初めて純一を欲しいといった。
     ただ、セリフから分かる通り、彼女はどこまで行っても人とは分かり合えない、徹底的に損益の関係でしか交わることが出来ないと考えている。そうでなければ自分を対価にしようと思うだろうか?絢辻詞は恐らく誰よりも自分の価値を理解しているし、そのようにして今まで生きてきたのだから。
     この時点ではあくまで”契約”として二人は結ばれる。普通ならば愛や好意の証明、信頼の証等々で交わされるキスを、なるべく彼女自身の感情ではなく、信頼のおける人間同士の明確な権利義務関係に落とすことで安心を得ているのだ。それほど彼女にとって異性間の好意とは異常なもので、信頼のおけないモノだと考えているのだろう。
     この後、彼女は絢辻詞をそれ足らしめている生き方と、橘純一の価値観との間で衝突し、ひどく取り乱してしまうのだが、私はこの場面は確実に必要だったのだと感じる。もしこれが起きていなくても、そう遠くない未来に同じようなことで問題が起きてしまうのは確実だからだ。つまり、絢辻詞の価値観は、結局のところ何処まで行っても人と人は分かり合えないことが根本にあるからだ。
     それではあまりにも救われないではないか。

     実際の所、アニメ後半の展開はゲームと大幅に異なる。
     ゲームでは、大まかに全体を話すと、スキルートでは彼女が封印した寂しがりやで傷つきやすい「わたし」を救う話であり、ナカヨシルートは「私」と「あたし」を受け入れる話であった。そして両方とも創設祭実行委員を止めている。その為、主人公と向き合う時間が増えたので上記のような話になっていると考えられる。
     アニメ版では創設祭実行委員長を止めていない。このため橘との衝突後、彼女は「あたし」を自分から消し、「私」、つまり優等生としての自分だけで生きていくことを完璧にこなしていた。(実は、これはBAD ENDなのだ)
     彼女を気遣って放った言葉が彼女を深く傷つけた事への罪悪感、そしてすっかり変わってしまった彼女。純一は深く悩みます。
     そこで親友の梅原が喝を入れてくれます。
     「クリスマスはまだ終わっていない」と。
     その後、純一が「私」と「あたし」を持つ彼女が好きという、つまり今までの彼女そのものを受け入れたいと願うことで、やっと彼女は救われるのだ。まさにOPの「君のままで」はこの時の為にあったと言っていい!!!
     純一が彼女そのものを受け入れたことで彼女はやっと人と人は分かり合える可能性を受け入れる事が出来た。そしてやっと「わたし」が救われるのだ。
     
     そして”契約”は”約束”に変わり、物語は幕を閉じる。

  • 上崎裡沙編(25話)
     ある日純一は突然見知らぬ美少女の告白を受け、付き合うことになった。名前は上崎裡沙。しかし色々と心配をかけた梅原には交際を打ち明けたいという純一に彼女はNOを突き付ける。訝しんだ純一に、トラウマの原因ともなってる二年前、かつて一緒にクリスマスを過ごそうと思っていた牧原美香と偶然にも出会ってしまい、かつての真相を知る。

     見どころ:
     ヤバい(ヤバい)
     上崎裡沙が居なければアマガミは起きないのはそうなんだけどちょっと……。
     ただマージで可愛い。可愛いから全部許されている感がある。
     これはまあ語らないほうがいいので見てください。
     ヤンデレっていいよね!「パンドラの恋」や話を聞くと、ほんの些細なことが宝石のように大切な記憶となり彼への病的な執着心につながったのかなと思うと……いや実際可愛いんだよね……。やべぇよやべぇよ……。

 

 ここまで物語について書いたんですが、アマガミSSってデザインもホント秀逸でしてまあ言ってしまえば色合いや制服のデザインが地味なんですけど、それが他の作品より現実味があるというか独特の生々しさを出しているんですよね。

 さらに舞台が1990年代との事で携帯電話とかがない。だからコミュニケーションがすごく重要で、二年前のクリスマスだって仮にスマホがあったらデートをすっぽかされたりしなかっただろうし、田中さんは手紙を出す必要なんかないわけです。会えない時間に相手を想う気持ち、それがいじらしさを出しているんですよ。
 特にスマホ、携帯がある年代にとって携帯がない世界なんて、今現在と比べればフィクションそのものであり、またそれが無くても綺麗に話が進むので気にならない所も良い。

 フィクションとしての生々しさがこういうところでも生まれている。

 また、ヒロインには一貫して二面性が描かれており、分かりやすい例で言えば絢辻さんの「裏」と「表」のように、アマガミの物語は抽象的に言えば、物語を通して見えなかった彼女たちの別の顔が見えてくる、といった構造をとっていることがわかる。それらは全く無理がある展開を取っておらず、誰しもが少しの勇気を出せば起きえたかもしれないような事象の積み重ねで成立していることが分かる。また隠されていた面は、主人公がヒロインに助けられたり、逆にヒロインを助けたりといった関係性の中で明かされており、それは一つずつ信頼を重ねていった結果であると取ることが出来る。
 だからこそ見終わった後どことない寂寥感と人間に対しての賛歌というか、そういった気持ちにさせてくれる。そういった作品なのだと私は思う。

 

 まとめ

 長々と書いたが、結局アマガミと言う作品は我々の多くに寄り添ってくれる作品だ。
 それは主人公、各ヒロインに留まらず、美也や梅原、田中さん、塚原先輩、果ては黒沢や牧原まで、全ての登場人物とそれが織りなす物語が、創設祭へと向かう或る年の冬のほんの少しの間に輝日東で起きた小さな奇跡へと我々を誘う片道切符だと言っていい。
 誰しにもその奇跡は起きる可能性があり、しかし、勇気を出せずそれを揮うに能わなかった者、出会いがなく揮うことが出来なかった者、見事意中の相手を射止め、奇跡を手にした者……。この話は見た者のあるいは憧憬を、あるいは後悔を、あるいは思い出を、クリスマスイヴに降った雪で優しく包み込み、主人公とあるヒロインとの結末を心から祝福したくなるような作品なのだ。
 主人公橘純一は目の前にぶら下がった好機、その奇跡を掴むため周りを気にせずただひたすらに相手を求めた。相手を理解し、好かれようと努力した者を誰が後ろ指を指せようか?

 今までの人生が暗く、苦痛であり良い事なんて一つとしてないような人もあるかもしれない。しかし人生がどのようであれ、この作品が見せてくれたのは、人が人である上で最も尊い行いである、他人を慈しみ、受け入れて理解しようとするその姿勢がもしかしたら本当に現実でも存在するのでは、という可能性だったのだ。
 もしかしたらそのようなものは無いのかもしれない。だとしても、我々には既にアマガミがある。手に届かない遥か天上に彼ら彼女らの物語はきっと続いているはずなのだから。それをたつきにして無味乾燥な人生を精一杯生きていこう、そう思うのだ。

 



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絢辻さん